日语考试灰谷健次郎名家阅读4
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鉄三はわるくない
二時間めがおわって、小谷先生が黒板の字をけしていると、道子がそばへきていった。
「せんせい、てつぞうちゃんどうしてがっこうにこないの」
いつかは子どもにきかれるだろうと、小谷先生はびくびくしていたところだ。どう説明しようかとまよっていると、そばにいた勝一がいった。
「てつぞうちゃん、ストライキしとんやなせんせい」
「ストライキってなんやの」
「ストライキいうたら、やすむこと」
「そやから、なんでやすんでいるのってきいてんの」
「がっこうをかわらされるかわからへんから。なあ、せんせい」
勝一は両親からいろいろきかされているらしい。
「なんでがっこうをかわらされるのん」
そのころになると、たくさんの子どもたちが小谷先生をとりまいていた。
「てつぞうちゃん、なんにもわるいことしていないのに、なんでがっこうかわらされるのん」
「いろいろわけがあってむずかしいんだけど、鉄三ちゃんの住んでいる処理所が、おひっこしをしなければならなくなったの。みんなだって、お家がかわったら学校もかわるでしょ。こまっていることはね、処理所の人たちがおひっこしをしたいわけじゃなくて、お役所のつごうでおひっこしをしなければならなくなったの。お役所のつごうということは、このへんに住んでいる人たちのつごうということになるから、それで、たいへんこまっているの」
子どもたちはわかったようなわからないような顔をした。
「がっこうに、はいがふるからいけないんでしょ」
道子がいった。
「そうよ」
「おかしいなあ」と道子は首をかしげた。
「それだったら、しょりじょだけおひっこしをして、てつぞうちゃんたちはわたしらみたいにこのへんにすんだらいいんでしょう。わたしのおとうさんだって、おしごとはでんしゃにのっていくのよ」
そのとおりだ、こんな一年生の子どもでもわかっていることを、役所の人たちはどうして本気で考えてくれないのだろう、と小谷先生は思った。
「てつぞうちゃんはこのごろいいことばっかりしているのにね」
いつのまにきていたのか、たけしがぽつんといった。
「ぼくのおかあさんはいってたよ。しんぶんにのるくらいいいことをするのは、なかなかたいへんだって。あんたもしんぶんにのるくらいいいことをしなさいって」
小谷先生は笑った。
「新聞にのったからいいっていうわけじゃないけれど、鉄三ちゃんはなにもわるいことをしたわけじゃないんだから、学校にこれないということはかなしいわ。先生もつらいの」
「みなこちゃんもいないし、てつぞうちゃんもいないし、せんせいさびしいね」
うしろで淳一が小さな声でいった。
事件はだんだん大きくなっていった。教育委員会から調査団がきた。教員組合も介入した。PTAもひんぱんに会をひらいていた。
しかし、小谷先生の不安は日一日とつのった。いろいろな人がきて調べてくれるのはいい、だが、ほんとうに処理所の人たち、処理所の子どもたちの気持をわかってくれるのだろうか。
学校でも職員会議がひらかれた。
大部分の先生は処理所の子どもたちに同情しながら、同盟休校は行きすぎだというのであった。子どもを争いにまきこむのはよくないといった。PTAでも、そういう意見が大勢をしめた。
小谷先生は、自分はなにもしないで、口先だけは正しいとか正しくないとかいっている先生たち、母親たちに絶望した。
小谷先生はバクじいさんのことばを思いうかべた。
(わたしらがストライキをやったら、たちまちこまってしまいます。わたしはみんなにいいましたわい。そんなだれでもやるようなことはやるな、たちまち人がこまるようなことをとくとくとしてやるな。どんなに苦しくてもこの仕事をやりぬけ。それが抵抗というものじゃ)
小谷先生はバクじいさんのように生きたいと思った。小谷先生は足立先生に相談した。
「先生、駅前でビラをくばりましょう。子どもたちに勉強を教えているだけで満足していては、子どもたちにわるいような気がしてきました」
足立先生は大さんせいだった。職員会議でいくら発言しても、反応のない先生たちに業をにやしていたところだったのだ。
ビラの文面は足立先生と処理所の人がいっしょになって考えた。
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