日语考试灰谷健次郎名家阅读3
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波 紋
鉄三が学校を休んだ。一回の欠席もなかった子だったので小谷先生は心配した。休み時間に小谷先生はなにげなく足立先生にそのことをしゃべった。
「あれ、ぼくとこのみさえも休んでいるで」と、おどろいた顔をした。
折橋先生のクラスの恵子も休んでいることがわかって、あわてて、処理所の子どもたちの出欠を調べた。
教頭先生はろうばいした。いそいで校長室にはいっていった。
しばらくして、足立先生が呼ばれた。
「足立君、処理所の子どもたちが全員、欠席している」
「そのようですね」
「君、これは同盟休校だろうか」
足立先生は首をかしげた。足立先生にもよくわからない。処理所の親たちが学校になんのれんらくもしないで子どもたちを休ませるだろうか。足立先生ら心を許した教師にも伝言がない。足立先生にはちょっと考えられないことだった。
「ともかく君、いますぐ処理所にいって事情をきいてきてくれんかね」
教頭先生がわたしもいきましょうかといったが、足立君ひとりの方がことが荒立たんでよろしいと校長先生はいった。
足立先生はなかなかかえってこなかった。校長先生はいらだつ心をおさえかねて、なんども校長室をうろうろ歩いた。
小谷先生も折橋先生も授業がすむとすぐ職員室におりてきた。なんの情報もはいらないので、不安気な顔をしてまた教室にもどっていった。
図工の時間で、専科の教師に授業をしてもらっている太田先生はふたりにいった。
「かわったことがあったら、教室まで知らせにいってやるよ。落ちついて授業をしろよ」
昼近くになって、足立先生はやっとかえってきた。
「どうだった足立君」
まちかねて校長先生はたずねた。
「まずいです」
ぶっきらぼうにこたえた。たいへんきげんがわるい。足立先生はことばをつづけた。
「きのう、役所から人がきて処理所の移転について説明会があったそうです。たった二名できて、それもずいぶん若い男だったといいます。結論からさきにいうと、処理所の親たちは二つの点で腹を立てています。一つは、移転の決定がきゅうで一方的であること、それも、正式職員には一カ月も前から本庁でくわしい説明があったのに、臨時雇員には通告ていどの話しかなかったこと、二つめには、徳治の父親が子どもの通学はどうなるのかという質問をしたのにたいして、決められたとおりの学校にいってもらうといったこと、つまり転校しろということです。埋立地は道路もじゅうぶんでないし、ダンプカーの出入りもはげしい、子どもにとって、たいへんきけんだと功の親がいったら、その男たちはどうこたえたと思います」
「なにかいったのかね」
校長先生は身をのりだした。
足立先生はいっそう不きげんな顔になっていった。
「きょうび、犬でも車をよける、いいですか校長、ようきいといてくださいよ。きょうび、犬でも車をよける、といったんです」
「バカなことをいいくさって」
校長先生もにがい顔をした。
それから、足立先生と、校長、教頭先生は一時間あまりもこまごまとした話をつづけていた。
その日は水曜日だったので、小谷先生は昼からの授業がなかった。専科であき時間のできた折橋先生とふたりで処理所にいってみた。
子どもたちは例の基地にあつまっていた。勉強道具がちらかっているところをみると、勉強のまねごとをしていたようである。
ふたりが姿を見せると、子どもたちはかん声をあげてとびついてきた。
「さっきアダチがきとったで」
「うん、知ってるよ」と、折橋先生はいった。
「えらいわね。みんなで勉強してたの」と、小谷先生がいうと、
「おれと純としげ子が先生」と功はえらそうにいった。
「おにいちゃんはね先生、わからへんかったら、ゴムのホースであたいらをぶつの。鉄三ちゃんも一回ぶたれた」と、みさえがうらめしい顔をしていった。
「三つもたたかれたァ」と、浩二がいっている。
「そやかて、こいつらものおぼえがわるいんやで先生」
と、純は半分にげごしでいった。
五たす八は、ときかれて、まごまごしている鉄三を思うと、小谷先生はしぜんに笑えてくる。ゴムのホースでぶたれて、鉄三はどんな顔をしているのだろう。
「それにしても、ストライキやなんて、おまえら、かっこのええことやりよったなあ」
折橋先生がいうと、功は口をとんがらせていった。
「なにがかっこがええんじゃ。チビらに勉強は教えてやらないかんし、時間は長うてたいくつやし、ええことなんかちっともないわい。学校にいきたいワ」
「そらそうや、すまん」
折橋先生はすなおに失言をわびた。
「はじめはおとうちゃんやおかあちゃんらとけんかして、なんでぼくらが学校を休まないかんのやいうとったんや」
この子どもたちがいっせいに両親にくってかかるようすを想像して、折橋先生はいっしゅんたじろいだ。
「そやけど、おれらかて島ながしはいややもん」
だれがいい出したことばか知らないが、島ながしとは、うまいことをいったものだ。まさしく現代の島ながしだ。
「先生らに会えんようになるし……」
純がしょんぼりいった。
「そいでがんばっとんや」
「すまんすまん、先生がわるかった。ごめんして」
大きなからだの折橋先生が小さくなっている。
処理所からかえった折橋先生はすぐ校長室にいった。
「校長さん、ぼく、考えたんですが、処理所の子が学校を休んでいたら、教師は出張授業をせんといかんと思ったんです。子どもが休んでいるのを、教師がじっと見てるというのは犯罪です。ちがいますか」
「あんたのねっしんさはたいへんけっこう。けれど、じっと見てるということばはとりけしてもらいたい。わたしもいろいろ手をつくしている。これでもそうとう苦労をしているつもりだ」
と、校長先生はいった。
「そりゃすみません。ことばがすぎていたらあやまります。だけど、その出張授業というぼくの案、考えてみてくれませんか」
「うーん」
校長先生は考えこんでいた。
三時ごろ、学年主任と処理所の子どもの担任がそれぞれ校長室に呼ばれた。そこで折橋先生のいいだした話がけんとうされた。
とくべつな勤務をむりじいするわけにはいかない、気持のある先生がいくことはさしつかえない、ということになった。折橋先生ははなはだ不満だ。
その日、処理所に勉強を教えにいったのは、けっきょく、四人の先生だけであった。
小谷先生は思った。この処理所をさいしょにおとずれたとき、四郎がこわい顔をしてさけんだことがある。
「おおかたのセンコはわいらをばかにしとんじゃ。わいらのことをくさいいうたり、あほんだれいうたり、だいたい人間あつかいしてえへんのじゃ」
ざんねんながら、四郎のいったことは正しかったのだ。
「姫松小学校でええセンコいうたら、アダチとオリハシとオオタくらいやな」
子どもたちはとうから、見通しだったといえる。
処理所の子どもたちが同盟休校をはじめて三日めに、皮肉なことがおこった。
「六歳のハエ博士、おとな顔まけの業績、保健所も手をやくハエ、一目で発生場所を見破る」
新聞は大きな活字で、鉄三の研究を報道した。鉄三がハエのビンをのぞきこんで、記録をとっている写真ものせてあった。
ハム工場のハエ退治の話、一年生の鉄三がハエの生態を系統的に調べていること、いま研究しているのは、ハエに色の好みがあるかどうかということなど、新聞の記事にしてはかなりくわしくかかれてあるのだった。
同じ新聞の社会面にやはり大きな見出しでつぎのような記事が報道された。
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